翆玉白菜

6月末の土曜日に訪ねようとしたが悪天候のため、訪問を断念した東京国立博物館。そこには台湾の故宮博物館の文物が展示されており、極め付けはこの翆玉白菜でした。テレビの画像です。

全体の展示期間は6月24日から9月15日なのに、なぜか翆玉白菜だけは7月7日までと短い。この宝物は、清朝の皇帝光緒帝の妃の持参品で、今風に言えば嫁入り道具のひとつではないかということ。1911年の辛亥革命清朝が倒れてからは、北京の故宮博物院の所蔵品となり、1933年に日本軍の侵略を避けて上海に移され、その後たびたび場所を移動した後、1948年に内戦のあおりを受けて、台湾の故宮博物院に移され現在に至っているということらしい。天然の翡翠の白と緑の色をうまく生かして白菜を形どっており、どう見ても石を刻んでつくられたとは思えない作品。白菜の緑の葉の上に昆虫の尻尾らしきものが見えているが、これは子孫繁栄を願ってキリギリスとイナゴが彫刻されているのだという。

先週の報道では、白菜を見るまで四時間もかかるのに、来場者は途切れもせず大人気だというのです。自慢ではないが流行ものに飛びつくのは大嫌いで、まだスカイツリーにも登ったことがない。しかし白菜となると話は別です。なにしろ無農薬で白菜を育ててキムチまで手作りする家庭菜園家。わずか100年程前に渡来し、いまでは日本古来の野菜のように、私たちの暮らしにとけこんだ白菜。興味が年々強くなり、暇ができたら原産地の地中海沿岸などを訪ね、白菜の生い立ちや故事来歴、調理法などを調べ尽くしたいと密かに願っている。栽培技術も向上し、最近は下のような1個4キロの大玉をつくるほどの腕前。

前置きが長くなりましたが、そういうわけで、とうとう5日(土)の朝早く家を出て東京国立博物館まで行ってきました。

上野駅の公園口を出ると、博物館に向かう人の数が増え始め、展示されているはずの建物の入り口付近まで長蛇の列。急いで入場券を買い、列の最後尾に並んだのが9時前。

しかし30分もしたら、人が吸い込まれている建物に接近。あとは左に100mほど進んだあと、折り返せば入口は目と鼻の先。ちょうど建物の中から、見学を終えた人たちなのか、ぞろぞろと出てくるのが見えています。このぶんなら、あと30分もすれば、つまり到着して1時間程度で見学がかなうかも知れないと胸躍らせる“Scientific farmer”。

実際30分ほどで、上の建物に入ることができました。が、様子がおかしい。どうも白菜はこの建物のなかにはなくて、見学者が建物の中に並んでいるだけ。こうした部屋が建物内には3つもあって、その部屋の中をぐるぐるとまわるだけ。勝手な想像ですが、梅雨時とはいえ7月の天候はときに暑くなることがある。見学客が熱中症にでもなったら、安全対策を問われる恐れがある。そこで、こうして見学者の列が屋内を巡っているのではないかというのはげすの勘繰りか。

実際は、写真の右の建物が白菜を展示している本館。結論的には、2時間半ほどで、翆玉白菜を見ることができましたが、その余禄もありました。
私の場合は、白菜に対する単純な興味で見に来ているが、他の見学者はすべて白菜栽培者ということはあり得ない。どうして4時間並んでも見たいと考えるのか、尋ねてみました。30歳代後半から40歳代かと思われる2人のお嬢様同伴の75歳だというご婦人いわく。嫁ぐ娘に翆玉白菜を持たせたという光緒帝の逸話を知ったのはだいぶ昔のこと。一度見たいと考え、台湾の故宮博物館を訪ねることも検討したが、それがかなわないでいたところ、今回初めて日本で海外出品の展示がされることを知り訪ねてきたという。見学者としては本格派でした。
そのお隣の夫婦連れは、佐賀から東京に旅行に来て、上野公園を散歩していたら、何だか人々が並ぶので、自分たちも並んだという。いわば気まぐれ派。東京旅行の貴重な時間を2時間以上もここで費やしたが、これもいい思い出になったと前向きな捉え方が、とても印象的。物珍しさで並んでいる方も多いのかも知れませんね。並びながら、いろいろの話題で盛り上がり、結構楽しい時間を過ごすことができました。
最後に現物を見ての印象。この新聞記事にもありますが、翡翠の彫刻とは思えない、本物のようなみずみずしい白菜。実物は手のひらに乗るほどの大きさ。縦が16cmほどでほっそりしている。焦点距離の長い望遠系のレンズで撮ると、細い方でもふっくらと写るが、白菜もじつはそう。上のテレビの画像、新聞記事の写真のどちらも、実物よりはふっくらと写っていることがわかったのです。
ひょっとしたら、“Scientific farmer”が見たいと期待している原種の白菜は、こんなものかも知れない。ご婦人の言葉は、「まるで間引き菜みたい。味噌汁の具ぐらいにしかならないわ」だと。比べるまでもなく日本の白菜は品種改良が進み、ふっくらし過ぎでした!!!白菜の飾りのついたペンシル。何種類かの記念品が売られていたけど、手軽なので買いました。敷いてあるのは、1600円の入場券の残りです。

彗玉白菜を見て、何かの発見があるかも知れないという期待があったのに、気づいたのは、細さの1点だけ。それと嫁ぐ娘に、宝石でつくった白菜を持たせる親心。権力者だから、とてつもない価値のものを持たせることができた。しかし親心って古今東西、今も昔もそういうものなのかも知れない、と極めて平凡な気づきも。何と常識的な結論なことでしょう!!!

台湾 お土産 故宮博物院 エッグロール 台湾土産 海外土産

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