“Scientific farmer”、厳寒の地に丹頂鶴と海ワシを訪ねる

南国で生まれ育った、寒さに弱い人間が厳寒の釧路を訪ねる。これはちょっと、無謀(笑)かもに知れませんが、ワケあって北海道に行ってまいりました。きょうはその報告です。
訪問の時期は今月9日〜11日。まず訪ねたワケから。「怪我や病気で弱った動物の保護の仕事をしたい」。そんな大志をもって昨年3月、私が非常勤講師をつとめる専門学校卒業生が、釧路にある猛禽類医学研究所に勤務することになりました。彼女は、福岡で生まれ育った20歳。学校で動物のことを勉強したにしても、いきなり釧路で働くというのですから、消極的な選択が多く見られる?最近の若者としては相当の決断です。動物保護への強い使命感といってもどこに彼女を惹き付けるものがあるのか。可愛い娘を九州からはるか北海道に送り出す親御さんとしては相当、びっくりされたかもしれません。
さて、大手企業役員を定年退職して専門学校に入学し彼女と同級生だったKさんは、彼女の進路選択にいささかの関わりがあったため、その後彼女が元気で働いているか訪ねてみたいという気持ちがありました。私はそのKさんに誘われて同行したのです。もちろん最近、野鳥の写真撮影の真似事をするようになったので、この機会に北海道道東地方の鷹や鷲、釧路湿原に飛来する丹頂鶴を見たいという軽〜いノリもありました。
しかし動物保護ってどんな動物をどのように保護するのか。現地を訪ねるまでは、さっぱりわかりませんでした。訪ねてみると、研究所は、猛禽類の保護や医療の業務をしており、オオワシオジロワシという、国内最大でタカ科オジロワシ属に属する猛禽類が対象でした。これらは海洋生態系の頂点に位置することから海ワシとも呼ばれ、冬鳥として知床地方の海岸や河口、湖沼などに渡来するのです。研究所は、そうした猛禽類の保護や医療、棲息調査など広範な取り組みをしていました。世界の海ワシの棲息数は正確な統計は不明のようですが、ヨーロッパには5000〜6000の番(つがい)がいるとの報告もあります。国内の推定生息数は約700羽程度と言われており、双方とも絶滅危惧種で、国の天然記念物に指定されているのですが、この動物が怪我や病気をするため保護活動が求められているというのです。昨年4月からのわずか1年足らずで、こうした基礎的知識から具体的な餌やり、ケアの仕方、生息調査などの実践的なことまで、すっかりマスターして生き生きと働く姿を見て、とても嬉しくなりました。
ところで自然の動物がどうして、怪我や病気になるのか。生き物ですから、厳しい自然の中で生きてゆくうえで、いろんなリスクがあり、逃れられない突発的な事故があることはわかります。しかしそこには人為が絡む、海ワシならではの厳しい世界がありました。海ワシは、列車事故や狩猟で撃たれ、傷ついたシカなどを食べる際、自らも列車にはねられたり、シカの体内に残る鉛の銃弾を食べてしまい鉛中毒になり、それがもとで衰弱し病気になることが多いそうです。研究所は現地からの連絡・報告を受けて、回収・治療などにあたっており、所長のS先生(獣医)を中心に副所長ほか数名のスタッフが構成されていて、忙しく働いていました。短時間ですがその日、保護されたワシの診断の様子や、研究所の建物に隣接する保護用ケージを見学させていただき、また研究所内のビデオやパンフレットなどでこの問題の概要を知ることができました。ベッドに横たわるワシの実物を見るのは初めて。脳に障害を受けたため運動能力を損なっているということでしたが、大きな目玉をグルグルと動かしてまわりに視線を配るワシの姿はかわいそう。また保護用ケージは大中小3つがあり、一番手前の小さなケージには、20頭ほどのワシがいて、怪我や病気が治っても足や羽に致命的な傷を負っているため、再び空を飛び回ったり餌をとったりという野生生活には復帰できない、哀れな鳥ばかりでした。奥行20m、幅50mほどの、ここでは一番大きなケージでは傷が回復し、ケージ内を飛び回るワシの姿が見られました。
写真は、ケージの中のオオワシです。怪我が治ったとしても、後遺症のため野外で暮らすことはできないワシたち。憐れです。

最近は、再生エネルギーの利活用のため、北海道・東北地方でも風力発電施設の整備が進められていますが、発電用の羽根車にぶつかって怪我したり死んでしまう事例が増えているようです。また、この研究所は主に環境省の予算で運営されていますが、ワシ類の保護・治療という仕事は、きわめて特殊な世界であり、専門の獣医師や看護師、リハビリテーターなどの人材育成・確保、資金の確保などには相当の苦労があるようです。これまでの経済社会の発展過程で見落とされてきた自然環境そのものの価値。これらの保護の問題。グローバル化が進行する一方で、人間中心の経済活動や社会発展に直接の関わりが薄く感じるものであっても、存在そのものが貴重でありこれらを次の世代にどう継承するか。鉛の銃弾を鉄に変える。関係者の提唱により進められているようですが、オオワシたちの中毒の原因になる鉛の銃弾使用を避ける取り組みなどを本格化することが大切で、そうしたことを広く周知する必要があります。
と、前置きが長くなりましたが、今回撮ってきた写真を紹介したいと思います。まず、9日に訪れた阿寒丹頂の里の様子から。丹頂が青空を背に飛び交う優雅な姿を目にしてその美しさをどう表現すれば良いのか。なかなか適当な言葉が見つかりません。遠くにそびえる雪に覆われた山は雌阿寒岳です。




こちらは10日の丹頂の里。丹頂の雌雄の舞が見られることで有名なところです。

この時期は1月上旬ということで、丹頂は数が少なくてその様子は撮れませんでした。たまたま本日の日経朝刊に写真がでたのでアップします。プロの仕事はさすがというべきです。

次は、オオワシオジロワシオジロワシは羽を広げると180cmというから、ほぼ畳の長さはある大きなワシで、これが空を飛ぶ姿は勇壮そのもの。なかなか近くにきてくれません。

オオワシは、オジロワシよりもさらに大きい。おもに魚を食べるが、この季節は河川などが氷に覆われるので漁港などの近くの木にとまり、捨てられたりこぼれたりする魚を見張るのだそうです。このため数羽いっしょに見られます。


トビですが、関東周辺でみかけるものよりも獰猛で、体も大きいように感じました。

にわか仕込みの勉強のため不十分な報告ですが、今回特に感じたことは、私たちが日ごろ見あげる空は北海道の空とつながっていて、埼玉の小さい畑だからどうでもよいということはなく、地道ですが土を大切に、そして小さな生き物たちとの関わりを大切にしながら、野菜づくりを楽しみたいと考えます。ちょっと論理が飛躍しすぎかもしれませんが。