うまし国イギリス、フランス

パリのシャルル・ドゴール空港から離陸して約1時間ほどで懐かしいロンドン上空です。1週間ぶりに空から眺める美しい街並み。日本と違って色調や家の並びが整然としていて緑も多い。写真の場所は空港に近いので公園やゴルフ場が多いのですが、ロンドン周辺の緑の大部分は農地です。それがきちんと耕作(管理)されているから美しいのです。ロンドン市でもそうだから、郊外に行けば…。そのことにあらためて感動しました。

ヒースロー空港で飛行機を乗り継いで、来たときのコースを逆にスカンジナビア半島の上空、シベリア、そして中・ロ国境をかすめて日本海というコースで帰路につきました。このうち7時間近くは、再び雪と氷に閉ざされた平原を飛ぶわけです。写真は中・露国境付近の上空ですがホントに寒そう。これを見ると、ここらよりはるかに北に位置する北緯51度のロンドン、同じく48度のパリは温暖そのもの。きっと海流の影響でしょう。

花が咲き乱れる季節に訪問し、しかもいいところしか見ていないのにとお叱りを受けそうです。しかし、あえて言わせていただくと、初めて訪れたロンドン・イングランド、そして久しぶりのパリ・フランスを一言でいえば「緑したたる、うまし国」という表現がぴったりです。「うまし国」という言葉は「土地が豊かで美味しい農産物を生産できる国」という意味のつもりです。
私たちを乗せた飛行機は29日朝9時に東京(成田)に到着しました。北緯35度。これは東京の緯度です。ロンドン・パリよりも随分と南にありということ。日本はこれから田植えの最盛期。飛行機から、朝日の中に水をはった田んぼが光って見えました。
幕末に日本を訪れたプラントハンターとして顕著な功績をあげたロバート・フォーチュンは、著書「幕末日本探訪記」の序文にこう記しています。「日本は風光明媚なこと、ヨーロッパに見られない植物の種類に富んでいること、美しく、かつ有用な植物の多いことなどを知っていた」と。そして本文では「身分の高下を問わず花好きなことであった。良家らしい構えのどこの家も、一様に裏庭に花壇を作って、小規模だが清楚に整っていた。この花作りは、家族的な楽しみと幸せのために大変役立っていた。」と日本人がいかに花好きかであったかについて述べています。ちなみに彼の来日はイギリスが産業革命による経済発展と環境悪化の頃でした。
地形急峻で一人あたりの耕地面積が狭く台風や地震といった問題はありますが、私たちはヨーロッパの人々からも羨まれるような豊かな自然に恵まれた国に生まれたわけです。しかし最近の状況はどうでしょうか。「限界集落耕作放棄地」の発生など、農山村だけでなく大都市周辺の近郊農地の土地利用は低下しています。
残念ながらいつの時代も国際社会は弱肉強食という現実。イギリス、フランスでは国を守るために命がけで戦った勇者に敬意を払う一方で、国民の生存に不可欠な農と食を守ることに強い使命感をにじませています。英仏戦争や第2次大戦で隣国同志で戦い、生存のために食料や燃料が必須であることを体得したヨーロッパ諸国はEUとして新たな発展の道を歩み始めましたが、それぞれ苦労して独自の農業政策に取り組み高い自給率を維持する努力をしているようです。
日本も敗戦を体験し大変な苦労をしたはずですが、急速に輸出産業を発達させ経済大国となった反面、農と食に関しては外国への依存度を高めてきました。農に関わる人材の問題ひとつを見ても高齢化や後継者不足に喘いでいます。地球規模で見たとき、これからの人口増大に伴う食料やエネルギーの需要は急激に増加します。こうした情勢下で、日本は外国依存の代償を払うことにならなければいいのですが。
私たちは日本流の「ゆりかごから墓場まで」のルールをつくりあげる努力をすべきです。土と緑、そして生き物たちをもっと大事に育み、安全・安心のために農と食を大切にしてゆく。真の「家族的な楽しみと幸せのため」に、豊かな自然、土地の上手な利活用を高めていく。いまこそそうした知恵と工夫が求められています。家庭菜園はそのことの大切さを知る手がかりとしては有効ですが、家庭菜園ブームで日本の食をまかなうことは無理であり、もっと別の形が必要です。
地球を北回りで英仏まで旅行するだけでも考えさせられることがたくさんありました。機会をつくってヨーロッパの他の国々にも出かけて見たいし、久しぶりに南の国々も回ってみたい。自称Scientific Farmerにとって、今後に色々と疑問点や課題が残りました。これらについてはもっと勉強してゆきます。
今回の旅の最後の頁ということで、少し固くなってしまいました…。

  • 英仏の農業・畜産

英仏の農業・畜産は、食の安全、経営などに関するさまざまな問題を体験しながら、有機農業・畜産への取組や直接支払いなどにより今日の姿を迎えているということだと考えます。このブログではそうした点について不勉強のまま、空や車窓から眺めた印象・感想を旅行記録として綴っております。その点お含みの上ご覧下さい。筆者も、素人向けの適当な教科書が少ない中で、EUの農業や畜産について勉強中です。
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